川辺や用水路など、身近な場所で見かけるザリガニ。小学生の頃にザリガニ釣りを楽しんだ方もいるでしょう。
ザリガニを上手に飼うためには、何を用意し、どのようなお世話をすればよいのか。この記事で詳しく解説します。
大きなハサミがトレードマークのザリガニは、「ザリガニ下目」という分類に属するエビの仲間です。田んぼや川辺などにいる淡水性の「ザリガニ上科」「ミナミザリガニ上科」のほか、海に住む「アカザエビ上科」「ショウグンエビ上科」もいます。高級食材で知られるロブスターも、広く見れば、ザリガニの仲間といえる生物です。
元々、日本にはニホンザリガニしかいませんでしたが、ウシガエルの餌として輸入されたアメリカザリガニや、食用として輸入されたウチダザリガニが放たれた結果、日本各地に分布するようになりました(※)。生命力が強く、食欲旺盛で獰猛であるため、日本固有の生態系に甚大な影響を及ぼす生き物でもあります。
ウチダザリガニ
(※参考)
なぜそこら中に? まだ大丈夫なところもあります!|環境省
ウチダザリガニのページ|北海道 環境生活部自然環境局
ニホンザリガニは成体でも4~6cmほどですが、ウチダザリガニは15cm弱と非常に大きくなります。アメリカザリガニはその中間で、10~12cmほど。
体色は赤や茶褐色が基本です。この色は彼らが食べる餌の中にカロチノイドという色素を含む食べ物が多く存在しているためで、これが含まれていないもの(サバの切り身やジャガイモなど)だけを与え続けていると青色や白色などに変化します。ただ、特にアメリカザリガニの場合、その生息場所の水質や環境などによって、特徴的な体色をもった個体が数多く出現することもあります。
雑食で、植物や昆虫、小魚など、実にさまざまなものを食べることができます。餌は丸飲みではなく、大きな顎で噛み砕きながら食べることなどから、水を汚しやすい生き物であることを知っておきましょう。
ザリガニの種類によって異なりますが、アメリカザリガニの寿命は4~5年だといわれています。外敵のいない飼育下では5年を超えて生きた例もあります。
アメリカザリガニの繁殖は春と秋に多く見られます。尾の裏側や腹部などに白っぽい斑点(セメント腺)が見え始めてくると産卵間近で、交尾後、数日から数週間程度の間に卵を生むのが一般的です。産んだ卵は地面や水面に放つのではなく、自ら作った粘液で腹部の脚に接着させ、時折揺らして酸素を与え続けながら孵化まで守ります。水温が20〜25℃程度で安定していれば、約20日間で孵化します。
多くのザリガニは、環境省が「特定外来生物」に指定しています。
ザリガニ科 | 全種 |
アメリカザリガニ科 | アメリカザリガニを除く全種 |
アジアザリガニ科(アメリカザリガニ科から独立) | アメリカザリガニを除く全種 |
ミナミザリガニ科 | 全種 |
※2023年6月1日よりアメリカザリガニは条件付特定外来生物に指定されます。
参考:環境省・自然環境局「外来ザリガニ(2021年5月6日更新)」
以上から、ここではアメリカザリガニとニホンザリガニの2種だけを紹介します。
容姿の特徴 | ・体長約8~12cm ・赤色または褐色 ・突然変異で出現した別カラーもいる |
寿命 | ・約5年 |
名前の通りアメリカからやってきた外来種です。環境適応能力が高く、水田、用水路、池などのほか、生活排水が流れ込むような場所にも生息しています。そこに住む多くの在来動植物の生態を脅かす存在であり、「日本の侵略的外来種100選」にエントリーしている暴れん坊です。
自然界でよく見かけるのは赤色か褐色のオーソドックスなタイプです。その他にも、青、オレンジ、ピンク、白などさまざまで、流通量が少ないカラーはお値段が20倍以上になることも。
容姿の特徴 | ・体長約4~6cm ・体・ハサミに丸みがある |
寿命 | ・約5~10年 |
アメリカザリガニ、ウチダザリガニと違い、唯一の在来種です。かつては東北地方の北部や北海道で見られましたが、現在は一部の水域でしか確認できなくなり、絶滅危惧Ⅱ類に分類されています。生息域の一つである秋田県・大館市では天然記念物に指定されているほど希少です。
飼育ケースは必ずふた付きの水槽を用意します。プラケースでも構いませんが、ガラス製の水槽のほうが耐久性に優れており、ザリガニが引っ掻いても傷が付きにくいのが利点です。
砂川さん
ふた付きといったのは、ザリガニが脱走の名人なためです。エアフィルターなどをよじ登り、ほんの小さな隙間でもこじ開けて脱走する恐れがありますし、逃げ出して元いた場所と異なる場所に侵入してしまっては大変ですから、きちんと閉まるふたが絶対に必要です。水槽の深さも約30cmは欲しいところ。
水中生物の飼育に慣れていない方は、ろ過フィルターなどがセットになった水槽がおすすめ。
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ザリガニは平衡感覚を感知するために、脱皮後、小さい砂つぶを前端部に掛ける動作を取ることがありますが、飼育の段階で、こうした砂つぶが絶対に必要というわけではありません。
水槽の景観上、底砂を敷いても構いませんが、汚れの蓄積を防ぐため、粒があまりに小さいものは避けるようにしましょう。なお、水替えの手間を減らせる特殊な砂利もあります。
ろ過システムは飼育水を清潔に保てます。健康な飼育を続けるためにも、ぜひ用意しておいたほうがよいアイテムです。ザリガニ特有のにおいも軽減できるでしょう。
ザリガニはその体の構造上、非常に水を汚しやすい生き物です。ろ過システムがないと、水換えの回数を大幅に増やさなければいけません。水槽の大きさや形状に合わせ、さまざまな方式のシステムが売られていますので、上手に活用しましょう。
エアーポンプも絶対に必要なアイテムの一つです。ザリガニが酸欠にならないよう、水中に酸素を送ってやります。ホースの先に水中フィルターをつけてあげれば一石二鳥です。
上記はフィルターとエアーポンプがセットになった商品です。カルキ抜きもでき、初心者の方におすすめです。
砂川さん
エアーポンプを使用しない場合、水深は5~7cm程度にして飼育することはできますが、ザリガニは本来、魚と同じくえらで呼吸する生き物です。また、水の量が多ければ多いほど、水質が悪化するスピードも緩やかになります。あくまで魚を飼育するつもりで、エアーポンプでしっかりと酸素を送りつつ、できるだけたっぷりの水で飼育するようにしましょう。
飼育水には水道水を使用しますが、そのままの状態ではカルキを含んでいるため好ましくありません。水道水は半日ほど寝かしてから使うか、水質調整剤を利用してカルキ抜きをしましょう。
ザリガニは警戒心が強く、穴などを掘って隠れたがる習性があります。特に脱皮後は、まだ他の個体からの攻撃に耐えられる状況ではないため、隠れ家を用意する方が安心です。ハーフ植木鉢や素焼きの土管を用意してあげましょう。ザリガニの体がすっぽり入るサイズが必要です。
隠れ家としてだけでなく、場合によっては餌としても活用できる便利なアイテムが沈水性の天然流木です。実際に餌としてかじってくれるかどうかは材質などによりますが、水槽内の景観向上にも役立つため、薬剤を使わず熱湯でアク抜きをしたうえで1〜2本投入してみるのもよいでしょう。隠れ家として塩化ビニールの管などを使うよりも、より自然に近い雰囲気を作ることもできます。
もちろん塩化ビニールの管も隠れ家として使用可能
雑食なのでさまざまなものを食べてくれますが、手軽さや栄養バランスを考えるとザリガニ専用の人工飼料がおすすめです。水のにごり、におい対策用の善玉菌入りの餌もあります。なお、他の一般的な金魚用・熱帯魚用の人工飼料も使えますが、固形で、かつ沈降性(水に沈む餌)の商品を選ぶことが大切です。
もちろん、イトミミズや赤虫などの生き餌や冷凍餌を与えても構いません。水の汚れなどに注意しながら、バランスよく与えてあげましょう。
砂川さん
ザリガニは水草など植物性の栄養も摂ることがあります。お店では、マツモやアナカリスなど、リーズナブルな水草も販売されていますが、防虫剤などが塗布されている場合には、ザリガニにとって深刻な影響を及ぼす危険性もあるので、植物質主体の人工飼料を与える方が安全です。人間と同じで、食を楽しめるよういろいろな餌を与えてやるのが理想ですね。
また、生まれたばかりの稚ザリガニなどは、水槽内につかまる場所などを多く設けておくと好都合です。水槽の景観向上も兼ねて、このような人工水草を投入するという方法もあります。
ザリガニはタフで飼いやすい生き物ですが、水量、水質、餌の与え方など知っておいたほうがよい点はたくさんあります。以下で代表的なポイントを紹介します。
ザリガニはえらで呼吸する生き物であるため、金魚などの飼育と同じく、エアーポンプで酸素を送りつつ、たっぷり水を入れても飼育する形がベストです。水量がある方が水温や水質の変化が緩やかになり、心地良い環境が整います。
また、ザリガニにとって活動しやすい水温は15~25℃といわれています。10℃以下になると冬眠の準備に入り、30℃以上が長く続くと命を落としかねない危険な状態になります。
一度にすべての水を取り換えるとストレスを与える恐れがあるため、底にたまった汚れの除去を兼ね、底砂を敷いている場合にはそれをかき混ぜながら、全体の1/3程度を換えてあげます。新しい水と残っている水との温度を合わせることも大切です。
餌やりの頻度は1日1回で十分です。ザリガニはゆっくりと時間をかけて餌を食べるため、1時間以上経っても餌が残っていれば満腹のサインです。毎回の餌やりで適量の感覚をつかみましょう。
食べ残しは速やかに取り除くことをおすすめします。放置すると水質悪化の原因になるうえ、不快なにおいを放ちます。
同サイズのオスとメスを1匹ずつ、またはメス2匹を同じ水槽内に入れます。繁殖のためとはいえ、パーソナルスペースを確保するために大きめの水槽(60cm程度)を用意しましょう。隠れ家となるものもたくさんあるほうがベターです。
ザリガニの交接の様子
交接後のメスのお腹に紫色っぽい卵が確認できたら、オスは別の水槽に移しましょう。メスが産卵に集中できる環境を作ってあげるためです。
産卵直前期のメスに現れるセメント腺
卵は黒っぽく変色した後、孵化が近づくと透明になっていきます。中が透けて赤ちゃんザリガニが見えるようになるでしょう。水温が20℃程度に安定していれば約2週間で孵化するのが一般的です。
孵化直前
生まれたばかりのザリガニは母親にくっついているので、一人歩きができるようになるまで見守ってあげましょう。孵化した直後の赤ちゃんたちは、母親にくっついたまま数回の脱皮を行なった後、次々と独り立ちしていきます。
孵化直後の赤ちゃんのための餌は必要ありません。母親の元を離れ、自分だけで歩けるようになれば別の水槽に移し、大人と同じ環境を作ってあげます。
餌は人工飼料を細かく砕いたものが適切。大きくなるにつれて共食いをする確率が上がるため、たくさんの隠れ家も必要です。
独り歩き開始直後の様子
稚ザリガニ
水質・水量管理に注意しつつ、ザリガニが安全に越冬できる環境を確保してあげましょう。氷が張ってしまうような場所は避けつつ、ザリガニが身を隠せるよう、落ち葉や流木、石などの隠れ家も用意してあげます。
水質の悪化を避けることはもちろんですが、水温の急激な変化は特に禁物です。家の中で飼育する場合も、水温が安定する場所を選ぶようにしましょう。水温が低い時期には食欲も衰え気味となるので、無理に餌を与える必要はありません。少量だけを与えてみて、反応を確認するようにしましょう。
屋内飼育に切り替え、水温をコントロールすれば、ザリガニはそのまま飼育し続けることができます。ただ、この場合でも短期間での水温の上下は、ザリガニの体力を大きく消耗します。金魚用ヒーターなどで15〜20℃程度に加温し、その水温をしっかりとキープしてあげましょう。食べ残しは水質の悪化を早めるため、この期間の餌やりには注意を要します。水が汚れにくい人工飼料が活躍することでしょう。
また、常温の場合でも加温の場合でも、水換えは夏場よりも慎重に行う必要があります。手順は前述した通りですが、水温の変化でショックを受けないよう、特に気遣ってあげてください。
上手な飼い方と通じるところもありますが、ここでは知っておいたほうがよい注意点に視点を切り替えて解説します。共食い防止や脱皮不全の防止など、命に関わる点も多いので、きちんと理解しておきましょう。
水槽の項目で解説した通り、ザリガニは脱走の達人です。ザリガニが逃げ出すことは、外来生物対策の観点からも、絶対に防がねばなりません。エアーポンプのホースなどをつたってふたを押し開けることもできるので、ふたは必ず準備し、きっちり締めましょう。
ザリガニは雑食ですが肉食傾向が強く、同じザリガニであっても捕食の対象になります。特に、自分のテリトリーにほかの個体がいると襲う場合があります。相手がオスであろうが、メスであろうが関係ありません。
したがって、ザリガニは単独飼育が基本ですが、どうしても複数匹を飼う場合は「共食いする確率を減らす」策を取りましょう。
隠れ家を多めにするのは、パーソナルスペースの確保を強化する意味もありますが、脱皮直後の無防備な状態で接触する確率を減らすためでもあります。また、同じサイズをそろえるのは、攻撃が特定の個体に集中しないようにする策です。
脱皮直前の様子。隙間が出来ているのがわかる
ザリガニは定期的に脱皮をします。脱皮はザリガニが成長するうえで欠かせない行為ですが、「できて当たり前」の行為ではありません。失敗すると命を落とす危険すらあります。
したがって、飼い主さんにできることは、ザリガニが脱皮しやすい環境を作ってあげることです。具体的には、次の点に注意しましょう。
ザリガニが脱皮の準備に入ったら、むやみに触らないであげましょう。脱皮前の主なサインとしては、(1)食欲がなくなる(2)胃石が生成される(3)甲羅が浮く、の3つがあります。
胃石とは、甲羅の内部、目の後ろ辺りにできる炭酸カルシウムの塊のことです。脱皮直後の殻は柔らかく無防備であり、海水と違い淡水では水に含まれているカルシウム分も少ないことから、新しい殻のためのカルシウム分を得るのは、そう簡単なことではありません。
そこでザリガニは、少しでも早く元の固さに戻すために、古い殻に含まれていたカルシウム分を溶かし、事前に胃石としてためておくという行動を取ります。脱皮が終われば、今度は胃石を再び溶かして新しい殻に供給していくのです。つまり、ザリガニという生き物は”リサイクル”の名人といえるわけですね。
胃石の実物
砂川さん
余談ですが、この胃石、極めて高品質な炭酸カルシウムが含まれていることもあり、ニホンザリガニから採取された胃石は古くから漢方薬として重宝されてきました。江戸時代に書かれた「和漢三才図会」などをはじめとしたさまざまな書物や医学・薬学書にも登場しているほか、歴史の教科書でも登場する幕末のオランダ人医師・シーボルトも、この胃石を積極的に処方した記録が残っています。
また、シーボルトは、入手したニホンザリガニをオランダ本国へ持ち帰り、当時の生物学研究にも大きく貢献しました。オランダの大学には、今もその当時の個体標本が残されています。
脱皮後に落ち着いて殻が固まるのを待てるよう、隠れ家は必ず用意してあげましょう。単独で飼育している場合でも、身を隠せるスペースを設けておいたほうが安心です。
脱皮後の抜け殻は、ザリガニが栄養補給のために食べることがあります。最大4日間くらいはそのままにしておきましょう。目安の期間が過ぎても食べない場合は捨てて構いません。
脱皮後の殻
ザリガニはお米やパンくずといった人間の食べ残しも食べることがありますが、適当に与えていると栄養不足になります。カルシウム不足やミネラル不足などが原因で脱皮がうまくいかないケースもあるため、餌の管理は必要です。市販の飼料を与えていない場合は注意しましょう。
ザリガニを飼ううえで疑問に思うことをQ&A形式でお答えします。これからザリガニを飼う方はもちろん、すでに飼っている方にも役立つ内容ですので、ぜひ参考にしてください。
A.ザリガニの捕食対象なので混泳はできません。水槽をもう一つご用意いただくことをおすすめします。
注意点の項目で述べた通り、ザリガニ同士でも複数飼いは推奨できません。縄張り意識が強く、命をかけた喧嘩が勃発してしまうからです。どうしても複数を同じ水槽で飼育する場合は、60cm以上の水槽で十分なスペースを確保するなど工夫してください。隠れ家も複数用意するとよいでしょう。
A.腹部分中央を観察してみてください。オスは生殖器、メスは卵を生むための穴があります。
オス。腹部中央に生殖器(交尾肢)がある
ハサミや尾の差では確実な区別がつきにくいので、生殖器の有無で判別しましょう。
病気にかかっている可能性はもちろんありますが、もっと根本的なことが原因かもしれません。たとえば、水温は15~25℃を保つなど、適切に管理しているでしょうか。飼育水の衛生面も含めて確認してみてください。
また、脱皮前は食欲が落ちて当然なので、気にする必要はありません。無事に脱皮するまで干渉せず、状況を見守ってください。
上記の2つに当てはまらない場合は、餌に飽きている可能性もあります。餌を与える間隔を少しあけたり、与える餌の種類を変えたりしながら、様子を見てください。
こうした状況を念頭に置き、飼育するなら最後まで責任を持って飼ってください。また、採集してくる場合も、必要以上に多くの個体を持ち帰らないようにする必要があります。間違っても、飼っていた個体を野に放つようなことがあってはなりません。
砂川さん
最後の最後まで仲良く、大切に育ててあげてくださいね。愛情を注いで育てれば、きっとかわいい姿をたくさん見せてくれるはずです。
砂川さん
なお、多くの外来ザリガニには「カビ病」という非常に危険で高い感染力を持つ病気を媒介する危険性があります。人間には感染しませんが、在来のニホンザリガニにとっては猛烈な悪影響を及ぼしますので、一緒に飼育したり器具を使いまわしたりしないよう気をつけましょう。「生息地で長靴を使い回すだけでもいけない」といわれるほど、感染力は高いとされています。