グッドデザイン賞を受賞した「カフェ板」

1年間の売上高が7億円を上回る大ヒット商品となった、長さ2m、厚さ30㎜の無垢の杉板「カフェ板」。日本DIY協会商品コンテスト2017で新商品部門金賞受賞、2019年にはグッドデザイン賞を受賞するなど、DIY市場で高い人気を得ている。

カフェ板KD 30×200×2000mm

カフェ板KD 30×200×2000mm

販売する中国木材は、住宅用木材のトップメーカー。国内のKD構造材シェア95%を誇る住宅用乾燥材「ドライ・ビーム」でも知られている。

今やDIY市場で押しも押されもせぬ人気を誇る「カフェ板」だが、実はDIYには使いづらいと不人気だった杉材を使用している。社内での製品提案時には「相手にされなかった」という逆風の中、一人で開発に着手した新谷光生さんに、カフェ板の誕生秘話を聞いてみた。

ホームセンターに置く木材を! 「カフェ板」着想のきっかけ

今から7年ほど前、新谷さんはホームセンターに商材を売り込む営業をしていた。しかし、ホームセンターのバイヤーに住宅用の素材を勧めても、売れるわけがない。

当時、ホームセンターに並んでいたのは、安くて見栄えのよいホワイトウッドなどのDIY用輸入材。カフェ板に使われている杉は「茶色いからユーザーに受けない」という意見が多かった。

新谷光生さん

中国木材株式会社 新谷光生さん(取材はオンラインで実施)

しかし、新谷さんには杉が他の樹種より劣っているとはとても思えなかった。

「杉は繊維の中に空間があって、空気をたくさん含んでいて軽い。そして、柔らかさがあるのに、折れない。例えば、南九州に生えている『飫肥杉』は江戸時代に造船用の木材として使われていて、上等品でした。住宅用木材で杉の良さを知れば知るほど、DIY市場で輸入材に押しのけられている現状に、納得がいかなかったんです。

当社には『ドライ・ビーム』用の乾燥機もありますし、加工用のラインも持っている。そうしたリソースを全部注ぎ込めば、輸入材に勝てる商品が作れると思いました」

杉はDIYには使いづらいと言われていた

「カフェ板」に使われている杉は、茶色いからDIYには使いづらいという認識だった

新谷さんはある日の営業会議で、「新規事業として、DIY市場で輸入材に勝てる杉素材の製品を作りましょう」と提案する。しかし、「こいつは一体何を言っているんだ」という空気が流れたという。

「あの空気はいまだに覚えていますね(笑)。今思うと、セールスの会議で、マーケティングの話をしてしまった僕が悪いんですが、当時はその違いがわからなかった。『これを作れば売れると思います』と言っても誰も相手にしてくれなかったものの、もう後には引けなかったので、自分でやることにしたんです」

孤軍奮闘した製品開発。販売にこぎつけてからは…

早速、個人で製品開発のための市場分析や材料の調査に動き出した。一方、営業職としては短期で結果を出すことが求められる。「会社から任された仕事で数字を出さない営業が何を言っても相手にしてくれない」と、昼間は死に物狂いでセールスに取り組み、製品開発は夜や休日を使って進めた。

合間を見つけながらの新規開発で、その上時間も努力も底なしに必要なマーケティングの仕事は、すぐには結果が出ない。手で削ったサンプルを持ち、エクセルで作ったパンフレットもどきの資料を携え、ホームセンターを回る日々。一般の人が扱いやすいよう、形状にもこだわった。

孤軍奮闘した製品開発

「これまでの杉製品はプロが扱うことが前提で、乾燥や湿度の変化に影響されやすく、使用法が難しかった。また、反りやすい傾向があるので表と裏が決まっていて、指定された向きで使わなければ時間がたつにつれ板の隙間が開いてしまいます。

でも、DIYでは『どんなふうに使おうかな』とユーザーが想像を膨らませるのも楽しい作業ですよね。ですから、個人でやるには難しい乾燥や表面の加工だけ手を入れて、それ以外の余計なことせず、手を入れる余地を残すことを大切にしました」

「カフェ板」を横から見た仕口面

「カフェ板」を横から見た仕口面。シンプルながら、素人が扱っても隙間のできない工夫が施されている

結果、加工の精度でSPFやホワイトウッドなどの輸入材を上回る製品が完成した。

また、商品としては長さをそろえることを求められるが、カットするとその手間の分だけ価格が上がる。そこで、車に積みやすい2mという単一の規格にした。電卓と「にらめっこ」して赤字にならないようコスト計算をし、輸入材よりも手頃な1,480円に収めた。

「品質で勝てて、値段で勝てて、あとは扱ってくれるところを探すだけ。必死で売り込みました」

すると、「杉はあんまりね」と言っていたバイヤーさんの中にも、「これだけ幅広だったら、使い道があるかも」と言ってくれる人が現れ始めた。ホームセンターに置いてもらえることになったのは、着想から実に一年後のこと。

「カフェ板」が完成

新谷さんの努力の結晶、「カフェ板」が完成した

今ではSNSでカフェ板を検索すると、何千ものDIYユーザーの投稿が見られる。テーブルの天板として使う人、キッチンをカフェ板で作り直したという人、とにかくオイルで磨きまくって手をかける人など、新谷さんが想像もしなかった使い方を発見しては、楽しんでいるという。

カフェ板を敷き詰めた床

カフェ板を敷き詰めた床は、木のあたたかさを感じられると好評

「見知らぬ人同士がインターネットを通じてカフェ板について教え合い、自慢し合いながら関わり合っている様子を見ると、僕ももっと頑張らないといけないなと思います」

杉製品を使う用途を増やすことが目的の一つ

新谷さんがここまで杉製品に力を入れるには、もう一つ理由がある。自身も20年にわたって悩まされている花粉症の抑制だ。

花粉症の抑制にも一役買う

花粉症の原因は、日本中の山に生えている杉。本来の伐採期は高度経済成長期だったが、当時は輸入木材が豊富にあったため、切らずに放置されたという。その杉が大きくなりすぎて、製品にしようとも用途が限られる。製材工場も持て余すほどになっているのだ。

「実際に、家具や建築物に使えるのはごくわずか。伐採を進めるには、それ以外の用途を作る必要があります。カフェ板は、大きくなりすぎて普通の製品としては使えない木の外側を使うことで、少しでも杉の伐採が進められるようにしているんです」

ホームセンターでカフェ板を買えば、そのお金は杉の伐採に回り、誰でも花粉症対策に参加できる。

「カフェ板が目立てば目立つほど、杉に興味を持つ人が増えて、今後ますます杉製品を使ってもらえる可能性がある。ですから『カフェ板』は、皆さんに杉に興味を持っていただくための突破口。これからも継続させることが大切なんです」